うん十年この仕事してて生前売買の登記は初めてかも。
一度、決済前日に売主が亡くなられたということがありました。
事前に病室にお伺いして意思確認の上すべての書類に署名押印をいただいていました。ですが生前売買でもないし代理権不消滅の規定も使えません。通常売買契約書には代金全額を支払って初めて所有権が移転するとの特約があります。代金を受領してない以上所有権移転の効力が発生していませんから。
逆に代金の授受が終わっていれば司法書士が法務局に走りますから登記未了ということも生じません。
だから何十年生前売買の登記には遭遇しませんでした。
ところが、今回なぜか買主さんが売主さんの署名押印のある売渡証書も委任状もお持ちなのに登記が行われていませんでした。売主さんも買主さんもとうに亡くなられています。
いくつか論点を備忘録として残しておきます。
1)昭和32年1月日不詳売買の登記の可否
月までは推測できるのですが売買日が分かりません。
年月日不詳弁済はオーケーの先例があります。
判決に売買日が書かれていないときは年月日不詳売買もOKです。弁護士さんは登記手続きに詳しくないからこういう判決がままあります。判決を救済するという趣旨ですね。
しかし生前売買の先例がありません。念のため照会掛けましたがもちろんOKです。
ちなみに照会者(私)の意見は「上記先例からも日不詳売買が登記できないとする理由がない」です。これよく使います。先例がなくて照会掛けるのですから積極的理由ではなく「○○が認められないとする理由はない」とします。
2)売主について住所変更登記が必要
これは売買日時点の住所への変更登記ではなく登記時点ですから必然的に最後の住所になります。
もちろん沿革が必要ですが昭和32年当時の住所の証明なんか出てきません。相続人さんに住所移転の経緯をお聞きし上申書を作成して署名押印していただくことになります。他に不在住不在籍証明をつけて住所変更登記を入れました。”登記は名変に始まって名変に終わる”とは、つくづく的を射た格言です。
3)買主の住所は本籍地で
買主の最後の住所の証明が上がらないときは本籍地を住所として登記できます。戸籍謄本は相続証明書としては相続関係説明図で原本還付できますが、住所証明書として戸籍謄本を添付するのですからコピーを取って原本証明しました。
4)本人確認情報は相続人について
権利書をなくした経緯とかは、”生まれる前なので分かりません”とかになりますが、それでいいのです。知ってる方がおかしいです。”○○と母から聞きましたとかでもとにかくそのまま書けばいいのです。
5)前住所通知は省略(たぶん)
さすがに何十年も前の住所地への前住所通知はされませんでした。っていうか不在住証明つけてますから。
まあこのような形式的なことはわざわざ書くほどのこともないですね。
問題は、登記簿の所有者の記載からどうやって戸籍を取るのかです。これが休眠担保権の抹消ならやった行方不明だ!となるのですが生前売買はなんとしても所有者を探し当てないといけないです。勘の働かせどころです
相続人を探し当てたとしてどうやってお願いするかですね。それはもう丁寧に誠意をもってお願いするしかないです。
今回は相続人がとってもいい方達で快く協力していただけました(*^-^*)
もう一件別の難航してた相続登記がやっと完了したのですが、さんざん困らせられて気を揉ませられたので感謝の気持ちが持てません。
夫に何か頼むとぶつくさ文句垂れてからやってくれるのですが、たぶん本人は文句言った方がありがたみが増すと思ってるんでしょうが反対です。増すどころかありがたみも感謝も消え失せます。
同じ結果でも散々困られられたらまったく感謝の気持ちは持てません。恨み言の一つも言いたくなります。
こういうときは、いつか自分が人にお願いする立場になるかもしれないと考えて気持ち良く協力しましょう。きっといいことが返ってきますよ
それから今回の登記、売買してすぐに登記する費用の3,4倍の費用がかかっています。
登記は都度行うのが一番安くて簡単なんです!
(令和4年11月)