認知症の義父(実母の後夫)の成年後見申し立て後に依頼人が義父と養子縁組をしたという案件がありました。
高額の報酬を取って養子縁組をしたのは弁護士でした。
依頼人から懇願されて私自身を成年後見人候補者として申し立てをしましたが、後見人を辞退しました。養子縁組の有効性に疑義があるから、被後見人が死亡した際に誰を相続人として扱って遺産を引き渡すべきか悩むのは目に見えていましたから。
家裁には養子縁組の事情を説明し、精神科医の精神鑑定をしてもらいました。
依頼人は、相続権が無いこと、今となっては養子縁組は困難であること、そういった私の説明に納得されていたのですが、弟や甥姪に押される形でそれらの者と一緒に養子縁組をされました。依頼人が遺言書(封印あり)を預かっていたので相続権はなくとも遺産を取得する可能性が高かったのに。普通遺言書を預けるのは財産を残したい相手に対してですから。
(上記はプライバシーに考慮し事案を変えています)
養子縁組は身分行為ですが即相続に関わってくるので経済行為とも言えます。
さて被後見人が養子縁組できるのか疑問に思われる方もおられるかもしれません。成年被後見人の養子縁組について規定した民法799条は成年被後見人の婚姻についての738条を準用しています。
第738条 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。
つまり、成年被後見人であっても養子縁組時に意思能力が回復しているときは単独で養子縁組をすることができます。
身分行為については本人の意思を尊重するということです。
ですが、最初に書いたように養子縁組によって第一順位の相続人となるのでとくに養子の側からは経済行為の側面が大きいと言えます。
近年高齢者の縁組意思の存否が争われる事例が多くなってきています。
養子縁組意思の存否は①縁組の実質的意思の有無②縁組の届出意思の有無③縁組時の意思能力の有無 が問題になるということです。
名古屋家庭裁判所判決平成22年9月3日は後見人の縁組無効確認の訴えに対し上記3つが欠けるとして縁組意思はなかったと判示しています。(もちろん1個欠けても無効です。)
①は親子としての精神的つながり、親子としての人間関係を築く意思と言われています。
親子同然に長年暮らしてきていつ何時ということに(急に頭がしっかりして)思い至り養子縁組することが無いとは言いませんが、老い先の短い認知症高齢者の養子縁組は、相続人となって遺産を受け取りたい養子側にいいように言いくるめられてとついつい思ってしまいます。とはいっても人の心の中はわかりませんから、まして問題が顕在化するのは、もはや認知症が進行し被後見人に確認しようがなくなってからや死亡した後でしょうから、客観的事情から推測するしかありません。
さしたる交流も無かったのに成年後見申し立て後にあわてて養子縁組したという場合は親子になるという意思はなかったと推測されるでしょう。
そのほか、縁組の届出に至るまでの経緯の異常性というのもメルクマールになります。わたしの案件では弁護士が関与していたので養子縁組届出書にはもちろん義父の自署による署名押印がなされているでしょう。ですが婚姻届を出すのに弁護士に依頼することがあるでしょうか?養子縁組も同様です。当事者が署名押印して役場に出すのが普通でもちろんタダです。それを高額の報酬を支払い弁護士に依頼すること自体が異常性の証左になるのではないでしょうか?
とはいえ、いまもあの養子縁組が有効か無効かは私には判断が付きません(だから後見人になることを辞退した)
ともかく、養子縁組は、後々その有効性が争われることの無いように、養親に問題なく判断能力があるうちに行いましょう。
高齢者の不動産の売却、遺言、養子縁組については意思能力を判定する医師の診断書等客観的基準が必要だという考えもあるでしょう。
でも、高齢者でなくてもこの人大丈夫か?ということもあれば高齢者でもしっかりされている方はしっかりしておられる。年齢だけで線引きするのも合理性があるのか疑問です。
司法書士には意思能力の判定能力はありません。
仮に後々有効であるという判決が出たとしても、訴訟や争いを惹起する、そのこと自体が司法書士の予防司法という役割から外れるのではないかと考えます。
だから私はグレーの場合は受託しません。
まあ、一か八かやるだけやるという考えもあるのかもしれませんが。
私の案件で養子縁組を助言・受託した弁護士のように。