さて表題の件、依頼を受けた案件ではなく、税理士さんの記事の事例です。
父が「全財産を2人の子供に相続させる」と遺言書を残した、母は認知症で遺産分割協議の為に成年後見人が選任され遺留分を請求された(だから遺留分に配慮した遺言書を書くべき)という記事です。
【父の遺産相続】“認知症の母”の成年後見人が遺産分割協議に参加、「遺言に反して遺留分を主張」で事前対策が無駄に(マネーポストWEB) - Yahoo!ニュース
一番の疑問は、母は遺産分割協議に参加する必要があるのか?という点です。
まず「全財産を2人の子供に相続させる」との文言は、民法902条の相続分の指定と言えるのかどうかが問題となります。相続分の指定とは、遺言書で共同相続人の法定相続分とは異なる相続割合を定めることです。母の相続分をゼロと指定したのは明らかですが、2人の子供の相続分が記載されていません。相続分を各2分の1と指定したと解釈するか、子供2人については相続分を指定しなかったと解釈するかですが、後者であっても民法902条2項により法定相続分(均等)になるので各2分の1ずつということになろうかとかと思います。
しかし端折って記事を書いただけかもしれませんが、こんな疑義の生じる事例をもってくること自体、あまり分かってないのかもしれません。
単純化するため「全財産を2人の子供に各2分の1の割合で相続させる」との遺言であったと事例を変えて検討することにします。
さて、相続分の指定は割合を定めただけなので、具体的にどの財産をどう分けるかは相続人たちが遺産分割協議で決定する必要があります。
(遺言による相続分の指定)旧規定
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
(遺言による相続分の指定)改正規定(令和元年7月1日施行)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
ちなみに、特定の相続人に特定の財産を承継させる遺言、「長男に下記土地を相続させる」のような「特定財産承継遺言」(改正前は”相続させる遺言”と言われていたもの)は、もちろん、遺産分割協議は不要です。
(特定財産に関する遺言の執行)
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第1014条
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前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
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遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
本事例と同様の事例が登記研究622号カウンター相談110で解説されています。
配偶者AとBCDの三人の子供が相続人で、遺言書には
①相続財産全部の3分の1を配偶者Aに相続させる。
②相続財産全部の3分の1を長女Bに相続させる。
③相続財産全部の3分の1を長男Cに相続させる。 と記載されています。
照会は、相続財産の全部につき、一部の法定相続人を除いて相続分の指定がされた遺言書及びその者を除いて作成された遺産分割協議書を添付してされた所有権移転登記は、その者が裁判所の許可を得て、遺留分を放棄していた場合でも、受理できないと思われますがいかかでしょうか。というものです。
これに対する回答は、「相続分の指定から除外されたものが相続の開始前に遺留分を放棄している場合は、家庭裁判所の遺留分の放棄についての許可書、相続の開始後に任意に遺留分を放棄している場合は、これを証する書面(印鑑証明書付)の添付があれば受理できるものと考えます。というものです。
しかも、私赤線引いてました💦(記憶にない)
指定相続分がゼロの相続人も、遺産分割協議の当事者になるが、遺留分を放棄した場合は当事者でなくなるという考えです。
とすると遺言書で除外された相続人が遺留分の無い兄弟姉妹の場合は遺産分割協議の当事者から除外されると考えてもよさそうです。また、民法改正によって遺留分減殺請求が金銭債権化された現状では、指定相続分ゼロの相続人を除外した遺産分割協議は有効ということになりそうです。
(遺留分侵害額の請求)
第1046条
1遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
でもこんな先例もあるのですよ。
登記研究565【質疑応答7485】
【要旨】共同相続人中の二名に相続させ分割の方法はその2名の協議で決める旨の遺言がある場合、遺言書及び当該2名の相続人による遺産分割協議書を添付してする相続登記の申請はすることができる
問 相続人がABCの3人であるところ「ABに自己の全財産を相続させる。但分割の方法についてはABの協議にて決定すること」との遺言書とABによる遺産分割協議書を添付してAB名義に相続登記することは可能か
相続分ゼロと指定された相続人がある場合も、遺産分割協議は相続人全員で行うのが原則ということですよね。例外的に、分割の方法についてはABの協議にて決定することと遺言書に記載されてる場合はCを除外した遺産分割協議も有効だと。遺留分権利者への配慮はありません💦
うーん、私ならやはり遺産分割協議には相続分ゼロとされたものを含め相続人全員が参加できるなら参加してもらう。
兄弟姉妹が相続人の場合は、遺留分がないと事前照会をかけて除外する。
子供の兄弟仲が悪い場合は、民法改正により遺留分減殺請求権は金銭債権化されたと事前照会かけて除外する。
(ハイご都合主義です💦)
冒頭事例の母親が認知症の場合は、金銭債権化されたとしても減殺請求する能力がないのだから遺産分割協議から除外しにくい。けれどそれがために後見人選任の申し立てするかといえば、相続人としては負担が大きすぎて後見人は付けたくないですよね。悩ましいです。
いっそ遺言書だけを添付して長男二男各2分の1の遺産共有の相続登記を入れるか、若しくは母親が亡くなるまで相続登記を待つかですね。
こんな自筆証書遺言書持ってこられたらほんとに悩みますよ。
なんでこんな遺言書作った?!っていうような遺言書、自筆証書遺言あるあるなんですよね